小説家から学ぶ表現、描写

小説を書くための表現方法を小説家から学ぶ

道尾秀介

銀色の線のような

風の中に、銀色の線のような細かい雨粒が混じってきたので、僕は窓を閉じた。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle7net ebookjapan

鋸(のこぎり)を引くように繰り返される

泰造は、両足を折り、その場にしゃがみ込んだ。両手で口を覆い、鋸(のこぎり)を引くように繰り返される、激しい呼吸の音を封じ込める。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle7net ebookjapan

しだいに曖昧になりつつあった。

陽は沈み、薄闇が周囲を取り囲んでいた。木々の輪郭も、対峙する少年の表情も、しだいに曖昧になりつつあった。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle7net ebookjapan

首筋に楔(くさび)を打ち込まれるような衝撃

首筋に楔(くさび)を打ち込まれるような衝撃を、泰造は感じた。視界に映る薄暗い景色が、ぐらりと揺らぎ、立ち並ぶ木々やミチオの顔が飴のようにひしゃげる。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAmazonK…

鋭い色が映り

ミチオの眼に一瞬、鋭い色が映り、すぐに消えた。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle7net ebookjapan

暮れかかる空に、吸い込まれるように

太陽を正面に見て、泰造はクヌギ林の林道を歩いていた。行く手の落葉が、落日を吸って橙色に光っている。ヒグラシの澄んだ声が、暮れかかる空に、吸い込まれるように響いていた。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブ…

深い穴の底から聞こえてくるような

「ーーわかったよ」 やがて、S君が言った。深い穴の底から聞こえてくるような、暗い、無感情な声だった。 「嘘をつくのは、もうやめるよ」 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle7net ebookja…

十本の指が、顔の前でぶるぶると震えていた。

十本の指が、顔の前でぶるぶると震えていた。お爺さんは、心底から怯えているようだった。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle7net ebookjapan

唇が隙間をあけて震えている。

「そんなことがあったのか? いつ?」 両手を座卓の上に叩きつけるようにして、お爺さんは僕に向かって上体を乗り出す。両眼が大きく見ひらかれ、唇が隙間をあけて震えている。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブッ…

枝葉に半分遮られた橙色の光

陽が傾きはじめていた。クヌギの枝葉に半分遮られた橙色の光が、窓の外に射し込んでいる。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle7net ebookjapan

ごくりと喉仏を動かして

ごくりと喉仏を動かして、お爺さんは眉間に深い皺を刻む。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle7net ebookjapan

ぐるりと大きく掻き回される

僕は愕然とした。自分の頭の中に、ごちゃごちゃと積み重ねられていた、たくさんの考えが、ぐるりと大きく掻き回されるのを感じた。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle7net ebookjapan

皺の寄った唇

やがて、皺の寄った唇が、ゆっくりとひらき、僕に質問した。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle7net ebookjapan

濁った硝子玉のような

僕を見下ろすお爺さんの眼が、すっと細くなった。濁った硝子玉のような、虚ろな眼だった。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle7net ebookjapan

怒りの感情が花火のように

胸の中で、怒りの感情が花火のように一気に噴き出すのを感じた。視界がカッと白くなり、咽喉の奥に熱いものが込み上げた。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle7net ebookjapan

ちりちりと火花を散らしていたのだ。

S君に対する怒りは、いろいろな形で、これまで僕の胸の奥底でちりちりと火花を散らしていたのだ。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle7net ebookjapan

不安の色が隠れている

「どこ行くのさ、ミチオ君」 その声に不安の色が隠れているのを、僕はたしかに聞き取った。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle7net ebookjapan

タマゴボーロみたいな月

空はとても奇麗だった。雲が一つも見当たらず、深い海の底のような、青味がかった黒が一面に広がっていた。その空の真ん中に、タマゴボーロみたいな月が黄色く浮かんでいた。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブック…

頭を満たす混乱が、だんだんといびつなかたちをとっていく

頭を満たす混乱が、だんだんと、いびつなかたちをとっていくのを、僕は感じていた。 そのいびつなものに、身体を、口を、勝手に動かされているようだった。 「僕は邪魔みたいだから、ここにいないほうがいいね」 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾…

ゆるゆると首を振った。

「小母さん、犯人に心当たりはないんですか?」 S君のお母さんは、ゆるゆると首を振った。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle7net ebookjapan

ドライアイスから流れ出す、白い霧のように

もやもやとした思い。ドライアイスから流れ出す、白い霧のように、それは僕の胸の底に静かに広がっていった。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle7net ebookjapan

体全体が心臓になったように

うなずくことも、首を横に振ることもできなかった。僕はただ口を閉じて、全身を強張らせていた。膝が、がくがくと震えているのがわかった。身体全体が心臓になったように、手が、足が、耳の中が、眼の奥が、どくんどくんと同時に脈打っていた。 向日葵の咲か…

その中を泳ぐようにして

アスファルトにゆらゆらと陽炎(かげろう)が立ち昇っている。その中を泳ぐようにして、ようやく図書館のそばまでやってきたときには、僕の全身は汗でべたべたななっていた。顔が蒸しタオルで包まれているようだった。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ…

唇を横に結び、ごくりと唾を呑んだ。

「それは、私にもわからない。ただ、とても気になることだけは確かなんだ。私の思い込みだといいんだが……」 お爺さんは唇を横に結び、ごくりと唾を呑んだ。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAmazonKi…

喉仏を、ぐり、と

お爺さんは僕の顔から視線を外し、傘の柄に乗せた自分の両手をじっと見据えた。しばらくそうしていたあと、喉仏を、ぐり、と一回動かして、また僕に向き直った。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAma…

両眼が一瞬、何倍にも大きくなった気がした。

「それってもしかして、あの日の朝のことですか?」 僕がそう訊いたとき、お爺さんの両眼が一瞬、何倍にも大きくなった気がした。 「どうして、そう思うんだい?」 声が、急に低くなる。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 …

粘ついた唾液

言葉を切り、泰造は粘ついた唾液を呑み込む。 「あれは、誰かに話しかけていたんです。私はそう思うんです」 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle7net ebookjapan

桜、楠、枇杷、山茶花ーー

桜、楠、枇杷、山茶花ーー。あまり手入れされていないようで、どれも怒ったように方々へ枝を突き出していた。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle7net ebookjapan

硝子のように色を失い

そのときのイビサワの顔は見ものだった。脂肪の垂れ下がった頬がいっぺんに引きつり、期待に輝いていた両眼は、ぴたりと静止して硝子のように色を失い、へらへらと笑っていた唇は、そのままの形で硬直した。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介…

ナメクジのように動いている

イビサワは僕の顔に思いっきり自分の顔を近づけてきた。口の中で、唾で濡れた舌がナメクジのように動いているのが見えて気持ち悪かった。 向日葵の咲かない夏posted with ヨメレバ道尾秀介 新潮社 2008年08月 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle7net ebookjap…