小説家から学ぶ表現、描写

小説を書くための表現方法を小説家から学ぶ

感情 「恐怖」「不安」

小説の表現、描写
「恐怖」「不安」

クライマーズ・ハイ 横山秀夫
 父は蒸発したのだと酒臭い母の懐で聞かされた。蒸発という言葉がひどく恐ろしいものに感じられた。呑み込むことも消化することも出来ず、それは漠然とした不安として胸に巣食った。

十角館の殺人 綾辻行人
 こめかみが脈打つように疼く。それに合わせて、思い出したくはない様々な光景が、心の中で脈打った。

逆流 田中経一
 しかし、ここから先、自分がやらなくてはいけない作業を思い描くと、身体全体がこわばる。口の中に苦いものを感じた。胃袋が経験したことのないほどの収縮をはじめ、胃液が食道を通り押し出される。

逆流 田中経一
 途端、自分自信が恐ろしくなる。これから先、どんなことが起きるのか予測もつかない。頭をハンドルに付け、暫くそこから動くことが出来なかった。

友罪 薬丸岳
 鈴木の声を聞いた途端、からだじゅうを締めつけていた恐怖という鎖が解(ほど)けていった。

友罪 薬丸岳
 益田の美代子に対する言動を思い返しているうちに、その可能性がより色濃くなっていくようで心が暗澹(あんたん)となった。

共犯者 小杉健治
 沢木という検事に会ってからそれまで凪(な)いでいた海に小さな波が起こったような微かな不安に襲われている。

共犯者 小杉健治
じわりと足元から黒い霧が立ちのぼってくる錯覚に襲われていた。

歪んだ蝸牛 田中経一
 板橋の頭は混乱状態に陥った。眼鏡の奥の眼球が小刻みに震えているのがわかる。耳の裏から首筋に冷たい汗が伝った。

歪んだ蝸牛 田中経一
 ファクスを持つ手は震え、呼吸が荒くなり、黒縁の眼鏡の奥で瞼が軽く痙攣した。

歪んだ蝸牛 田中経一
 今までの人生で経験したことのない事態だった。全身から脂汗が滲み出てくるのがわかった。腋(わき)の下から出た冷たい汗が脇腹を伝っていく。

共犯者 小杉健治
 悪寒が走り、嘉穂は全身の血をいっきに吸いとられたように目眩がした。

刑事のまなざし 薬丸岳
 異変を感じてナカさんに顔を近づける。ナカさんの口もとが赤く染まっている。
 それを見た瞬間、雅之の鼓動がせわしなくなった。

刑事のまなざし 薬丸岳
 部屋の隅に目を向けて動悸が激しくなった。昨日着ていたスウェットシャツの上に黒ずんだ軍手と大きなニッパーが放られていた。

刑事のまなざし 薬丸岳
 夏目の慈悲深い眼差しに好意を抱いたが、同時に、心の隙間から得体の知れない不安も忍び込んできた。
「早く……早く犯人を捕まえてください」

刑事のまなざし 薬丸岳
 先ほどの夏目の言動を思い返すたびに、恵子の胸に暗い影が差し込んでくる。

ミーコの宝箱 森沢明夫
 塗り替えたばかりの明るいクリーム色の校舎だって、わたしの目には灰色に沈んだコンクリートの廃墟に映ってしまう。

罪の声 塩田武士
 痛んだ胃から逆流するように迫(せ)り上がってきたのは、紛れもない恐怖心だった。

 生地に触れようと手を伸ばしたとき、不意にドアが開いた。
 冷たい風が頬を撫で、脳内の警戒ランプが灯る。これまで気配なくドアが開いたことなどなかった。第六感が非日常の展開を予言する。